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第9回目
聴覚障害偽装問題の取材を通して あらためて実感した『調査報道』の醍醐味

本社報道本部 梶山 征廣本社報道本部  梶山 征廣
1992年4月入社。校閲部、岩見沢総局、社会部、編集局付=北海道文化放送派遣、社会部、北見報道部、2005年3月から現職場

 「聴覚障害の身体障害者手帳申請が滞っている」「交付保留件数は数十件」「診断書に疑義があるようだ」「行政的には考えられない異常事態」。2007年11月半ば、関係者から寄せられたこの情報が、聴覚障害偽装問題報道の端緒だった。
 診断した札幌の耳鼻咽喉科医と道、手帳交付保留者への取材を終え、第一報「聴覚障害申請 虚偽の診断書作成か 札幌の開業医 道54人認定せず」が掲載されたのは07年12月3日付朝刊。問題はその後、拡大の一途をたどった。
 09年2月段階で、この医師の診断で身障者手帳を取得した880人のうち、845人が手帳を返還。手帳に関連した障害年金受給者が約140人に上り、08年度分1億7300万円の支給が停止された上、07年度以前に7億円が支給済みであることも判明した。重度心身障害者医療費補助や税金の減免などを合わせると、不正受給などが疑われる公金の総額は10億円を超える見通しだ。
 さらに、問題の中核には、札幌の耳鼻咽喉科医だけではなく、申請を代行する社会保険労務士、患者と医師や社労士とをつなぐ複数の仲介役なども存在。じん肺の労災休業補償に関する疑惑も浮上した。そして、道警が08年9月、虚偽診断書等作成容疑などで耳鼻咽喉科医院など関係先の強制捜査に踏み切り、詰めの捜査が現在も続いている。
  地道な取材の積み重ねで新たな事実を発掘していく「調査報道」は、記者の醍醐味の一つだ。詳細な証言と、膨大な文書を集める過程で、それまで見えなかった事実が浮き上がって見えてきた時ほど、記者であることを実感できる場面はない。
 ただ、明らかになると都合が悪い事案を、自ら進んで証言する人間は基本的にいない。取材班が取材した関係者は、100人以上に上る。しかし…。「お答えできません」。行政の担当者から何度、この言葉を聞いただろうか。「何しに来た」「お前らに話すことはない」。手帳取得者に怒鳴られるケースも多々あった。「あいつは○○の回し者だ」。特定の医療機関との関係について、根拠のない情報を吹聴されることもあった。
 このような困難な状況で、一連の報道が続けられたのはなぜだろうか。
 まず、「障害を持ち、苦労を重ねながら生活している障害者の方々に不利益な状況は看過できない」「社会的に不公正な状況を解消しなければならない」という思いを、取材班の記者たちが持ち続けたこと。2点目は、私たちが続けてきた報道の趣旨を理解し、自身の立場を乗り越えて情報提供などで協力してくれた多くの関係者がいたことだ。
 昨年12月。問題発覚から1年を前に、手帳を返還した道央圏の男性の元を訪れた。雪深い住宅街に建つ自宅を、深夜に訪れたにもかかわらず、男性は記者を居間に迎え入れてくれた。男性は「障害程度などの詳しいことを知らなかったとは言え、私もこの問題に関与した1人。私が今できることは、全容解明に協力することだ」と語った。
 「結果的に不正に関与してしまった。少しでも償いたい」。耳鼻咽喉科医院の元職員の1人も今、悔恨の言葉を繰り返している。
 彼らの言葉を受け止め、これから私たちに何ができるのか。責任の重さを噛みしめながら、模索を続けている。

2009年3月